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介護保険制度では、利用者が必要な介護サービスを受ける際に、1ヵ月あたりに利用できるサービスの費用上限として「区分支給限度基準額」が設定されています。
この記事では、2024年最新の情報をもとに、区分支給限度基準額の基本や適用されるサービス、適用されないサービスについて詳しく解説します。
区分支給限度基準額は、介護サービス利用者が1ヵ月間に受けられる介護サービスの上限を「単位」で示したものです。介護保険制度では、各サービスの利用量を単位という点数で計算し、1単位当たりの金額で換算します。1ヵ月の合計単位数が支給限度額の範囲内であれば、利用者は費用の1〜3割を自己負担する仕組みとなっています。
例として挙げると、2024年現在、要介護1の限度基準額は「16,692単位」であり、16,692単位以内のサービス利用は介護保険の適用を受けるため、自己負担を大幅に軽減することができます。
介護保険制度では、要介護度に応じて給付可能な範囲を明確に定めることで、制度全体の財政的安定性を保っています。サービスの過剰な利用を抑制し、介護保険を持続可能な制度にする狙いがあります。そのため、基準額を超えた部分は全額自己負担となる仕組みとなっています。
以下の表に、2024年最新情報をもとにした要介護度別の支給限度基準額をまとめました。
要介護度 | 支給限度基準額(単位) | 金額目安(1単位=10円換算の場合) |
要支援1 | 5,032単位 | 約50,320円 |
要支援2 | 10,531単位 | 約105,310円 |
要介護1 | 16,765単位 | 約167,650円 |
要介護2 | 19,705単位 | 約197,050円 |
要介護3 | 27,048単位 | 約270,480円 |
要介護4 | 30,938単位 | 約309,380円 |
要介護5 | 36,217単位 | 約362,170円 |
表の単位は1単位10円で換算しています。単位は地域区分によって異なり、その中でも人件費率が高いサービスは金額の割増率が高く設定されます。東京都23区は1級地に該当し、最も割増率が高く設定されます。その他地域には地方・郊外の多くの地域が含まれますが、割増率は算定されず、地域区分によって割増率を段階的に定めています。
例えば、その他地域では1単位10円なのに対し、1級地(東京都23区)の訪問介護や訪問看護などは1単位11.40円となります。金額は地域によって割増率が異なるため、自分の地域の地域区分に当てはめて確認しましょう。
また、この表を見ての通り、要支援1と要介護5との間では区分支給限度額に7.16倍もの違いがあります。介護度が高い方が介護にかかる手間が大きく、その分必要とされるサービス量が増えます。そのため、より多くのサービスを介護保険で利用できるように、区分支給限度額が段階的に設定されています。
介護度毎に設定された区分支給限度基準額を超過しないように、適切なサービスを選択・調整することが重要です。
区分支給限度基準額は、居宅サービスの利用上限額として設定されていますが、介護保険には他にもいくつかの支給限度基準額があります。それぞれの違いを理解することで、利用者やその家族により適切な提案が可能になります。
種類支給限度基準額は、特定の介護サービスを利用する際に適用される限度額です。
例えば、デイサービス(通所介護)やショートステイ(短期入所生活介護)などの特定サービスに対して、市町村がそれぞれのサービスに限定した支給限度の金額を設定します。
利用者はこの基準額の範囲内でのみ該当サービスを利用できません。市町村によって、サービス供給量が不足している場合に、種類支給限度基準額を独自に設定し、利用を制限・調整する場合があります。
住宅改修費支給限度基準額は、介護保険の認定を受けた利用者が自宅での生活を安全に送るためのバリアフリー化工事に利用できる制度です。住宅改修費はひとりの利用者につき生涯で20万円と設定されており、手すりの設置や段差解消といった工事に適用されます。
利用者が20万円を超えた住宅改修をおこなう場合、超過分は全額自己負担となります。ただし、複数回に分けて利用する場合でも、合計が20万円を超えない限り適用可能です。また、最初におこなった住宅改修から要介護度が3段階上がった場合や転居した場合などは、限度基準額がリセットされる特例もあります。
福祉用具購入費支給限度基準額は、利用者が必要とする福祉用具を購入する際に適用されます。福祉用具の購入費用のうち、1〜3割が自己負担となり、残りは保険給付として適用されます。
限度額は年間で10万円となっており、対象品目はポータブルトイレや入浴補助用具など、レンタルに適さない特定福祉用具に限定されます。
なお、2024年より、歩行補助つえや歩行器など一部の比較的廉価な福祉用具は、レンタルと購入のいずれかを利用者が選択できる選択制が導入されています。
これらの限度基準額は、それぞれのサービスごとに個別に設定されています。区分支給限度基準額と併せて、これらを活用することで、多様なニーズに応じた提案が可能です。
区分支給限度基準額は、利用者の要介護度に応じて介護サービス利用額の上限を定めています。限度基準額内でサービスを調整することで、費用負担をコントロールし、持続可能なケアプランの提案が可能になります。
介護保険では、要介護度によって単位数が変わるサービスと変わらないサービスがあります。同じサービス内容を利用しても、介護度によって単位数が異なる場合があるので、注意が必要です。要介護度によって単位数が変わるサービスと変わらないサービスを解説します。
要介護度によって単位数が変わるサービスには以下のようなものがあります。
- 通所介護(デイサービス)
- 地域密着型通所介護
- 認知症対応型通所介護
- 療養通所介護
- 通所リハビリテーション
- 短期入所生活介護(ショートステイ)
- 短期入所療養介護
- 小規模多機能型居宅介護
- 看護小規模多機能型居宅介護
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- 認知症対応型共同生活介護
- 特定施設入居者生活介護
具体的に、単位数がどの程度変わるのか、代表的な3つのサービスを例に以下の表にまとめています。
通所介護(通常規模) 7〜8時間 | 通所リハビリ(老健・通常規模) | 短期入所生活介護 (併設型多床室) | |
要介護1 | 658単位 | 762単位 | 603単位 |
要介護2 | 777単位 | 903単位 | 672単位 |
要介護3 | 900単位 | 1046単位 | 745単位 |
要介護4 | 1023単位 | 1215単位 | 815単位 |
要介護5 | 1148単位 | 1379単位 | 884単位 |
介護度が高くなれば、その分単位数も高くなります。通所介護では、要介護1と要介護5では1.7倍の単位数の差があります。要介護5の方が介護の手間も多く、職員の負担も大きいことから介護報酬を段階的に引き上げるように設定されています。
つまり、要介護度が重くなれば利用する料金も高くなっています。
介護度が増えて、区分支給限度額の枠が増えたとしても、単位数が区分によって変動するサービスを利用している場合は、サービス利用の合計単位数も同時に上昇します。要介護度が上がっても、サービスの量を増やすことができない場合もあるので注意しましょう。
参考:厚生労働省「介護報酬の算定構造」(令和6年6月)
要介護度によって単位数が変動するサービスもありますが、変動しないサービスもあります。具体的には以下のようなサービスが該当します。
- 訪問介護
- 訪問入浴介護
- 訪問看護
- 訪問リハビリ
- 福祉用具貸与
これらのサービスは介護度の変動の影響を受けることがなく、基本報酬の単位数は固定されています。
訪問介護 | 訪問入浴介護 | 訪問看護 | |
1回あたり | 387単位 | 1,266単位 | 823単位 |
以上のように、これらのサービスは介護度によって単位数が変動することはありません。利用した時間数や回数、サービスの内容、加算の内容によって変動することはあります。また、要介護の場合は同じ単位数に統一されていますが、要支援の認定の場合、単位数が異なりますので注意しましょう。
参考:厚生労働省「介護報酬の算定構造」(令和6年6月)
サービスによる単位数の違いを意識することで、支給限度基準額を超えずに在宅介護の体制を整えることができます。
区分支給限度基準額は多くの介護保険サービスに適用されますが、一部のサービスには適用されません。介護保険の支給限度額の枠外に位置づけられているサービスがあるためです。以下では、具体的に適用されないサービスの例と、その理由を解説します。
居宅療養管理指導は医師・歯科医師・薬剤師・管理栄養士などが自宅を訪問し、療養上の管理・指導・助言などをおこなうサービスです。介護保険だけでなく、医療保険と同時に請求できるものなどもあります。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)や介護老人保健施設・介護医療院など、長期入所で利用する施設サービスは区分支給限度額の対象外です。
施設サービスは要介護度ごとに単位数が設定されますが、施設内でサービスを完結するため、支給限度額で利用量を制限することはありません。施設が加算などを増やしても、そのために支給限度額を超過するということはありません。
居宅介護支援はケアマネジャーがケアプランの作成やサービスの利用調整、給付管理などをおこなうサービス。介護予防支援は要支援の利用者を対象にしたサービスです。この2つも支給限度額の対象外です。
居宅介護支援費は、要介護1・2または要介護3・4・5の2段階で報酬額が異なります。包括報酬なので、訪問回数やサービス担当者会議の回数などに関わらず固定されます。居宅介護支援費と介護予防支援費は公共性が高く、公平中立を保つため利用者の自己負担はありません。
区分支給限度基準額の適用対象外サービスについて解説しました。
介護サービスの利用が区分支給限度基準額を超過した場合、超過した分の費用は利用者の全額自己負担となります。つまり10割負担です。限度額を超えないよう適切にマネジメントすることが重要ですが、万が一超過してしまった場合の対応方法を把握しておくことも必要です。
1ヵ月のサービス利用合計単位数が区分支給限度基準額を超過した場合、その超過分は介護保険の給付対象外となります。たとえば、要介護1の利用者が1ヵ月に18,000単位分のサービスを利用した場合、基準額16,692単位を超えた1,308単位分の費用を全額自己負担する必要があります。
1単位=10円の場合
基準額超過分:1,308単位×10円=13,080円
この金額は介護保険の給付を受けられないため、その全額が利用者負担となります。
基準額を超えた場合の計算は、利用したサービス費用合計から基準額分の保険適用費用を差し引き、超過分を全額負担します。以下に具体的な計算例を示します。
- 総サービス費用:180,000円(18,000単位)
- 区分支給限度基準額:166,920円(16,692単位=要介護1)
- 超過分:180,000円-166,920円=13,080円(自己負担)
利用者は、この13,080円を介護保険給付外として全額自己負担する必要があります。また、基準額内のサービス利用分については、通常の自己負担(1〜3割)となります。区分支給限度額内の合計額の自己負担分(1〜3割分)と、支給限度額超過分を合算した金額が自己負担の金額になります。
区分支給限度額を超過しないよう、前月のうちにケアマネジャーとサービス利用票の内容をよく確認し、必要に応じてサービスの利用回数を調整しましょう。ただ、急遽サービスを増回しなければいけないなど、やむを得ない事情が発生する場合もあります。経済的な負担と介護負担のバランスを意識しながら、最善な計画になるよう、ケアマネジャーと相談することが重要です。
区分支給限度基準額は、1ヵ月のうちに介護保険制度のサービスを利用できる限度額です。サービス利用の合計が、この枠内に収まるように注意する必要があります。事業所を運営するにあたって、区分支給限度基準額について正しく理解することで、最善の提案ができ、利用者やケアマネジャーと信頼を築いていくことができるでしょう。