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訪問介護の従業員の移動は、通勤以外にも自宅から直接利用者の自宅へ訪問することや、訪問先から訪問先への移動など、様々な場面で移動します。「通勤時間」もしくは「勤務時間内の移動」という違いが生まれ、それにより給与が発生するかどうかが変わってきます。
今回は、労働時間の定義から、訪問介護で発生する時間のうち労働時間に含まれるものが何か、含まれないものが何かを解説いたしますので迷っている方はぜひ参考にしてください。
厚生労働省岡山労働局の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は下記のように定義されています。
就業規則や雇用契約書の内容に関わらず、訪問介護の従業員が自由に使うことのできない時間は労働時間となります。
労働時間に含まれるのは「事業所から訪問先、訪問先から訪問先、訪問先から事業所の移動」と業務をする上で必要な移動となります。訪問介護の労働時間についての定義から、訪問介護の従業員が自由に使うことができない時間となるため、移動時間は労働時間に含まれ、給与が発生します。
しかし、通勤時間は訪問介護の従業員が自由に使える時間であるため、労働時間に含まれませんので給与も発生しません。同じ理由で自宅から利用者宅へ直行、利用者宅から自宅に直帰する場合も自由に使える時間と判断されるため、労働時間に含まれません。
参考:厚生労働省「そもそも労働時間とは?通勤時間とは?」
カルテや業務報告書の作成は、介護保険制度や業務規定などによって業務上義務付けられた作業であり、これらの作成は労働時間に該当します。
書類の作成は単なる記録ではなく、仕事の一部であるため、職場においてカルテや報告書の作成がおこなわれる際には、時間も含めて労働とみなされ、賃金や労働時間の計算に含まれることが原則です。
また、これらの書類は業務上の記録として重要であるため、作成にかかる時間を考慮して業務スケジュールを調整することが求められます。仮に時間外に作業をおこなった場合でも、労働としてみなされます。
待機時間とは、訪問介護やサービス提供の予定がない場合でも、急な依頼や緊急対応に備えて、事業所や特定の場所で待機している時間のことを指します。
待機時間中、利用者からの指示で待機するよう命じられているため、訪問介護の従業員は自由に時間を使うことができず、行動が制限されます。そのため、待機時間も業務の一環として「労働時間」と見なされます。
待機を命じられた場合の待機時間は、訪問介護の従業員が事業所からの指示に応じて行動しているため、法的には労働時間として認められ、賃金や労働時間の計算にも反映されます。
研修時間については、会社の指示に基づいて受講する場合、時間は労働時間に含まれます。この場合、会社が必要と認めて受講を指示するものであり、業務の一環と考えられるためです。また、明確な指示がない場合でも、以下のような状況においては労働時間に含まれると判断されます。
事実上会社から研修への出席を強制されていると見なされ、研修時間も労働時間として認められます。また、業務上の知識やスキルを深めることが目的であり、訪問介護の従業員の職務遂行において不可欠であると判断される研修や講習に対しては、参加する時間が労働時間としてカウントされ、賃金や労働条件に反映される必要があります。
さらに、会社から研修受講に対して暗黙のプレッシャーや参加の強要がある場合も、訪問介護の従業員の自由な意思によるものではないと考えられるため、研修時間が労働時間として扱われることがあります。
労働基準法では、休憩時間について、労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は最低45分、8時間を超える場合は最低1時間の休憩を与えることが義務付けられています。
休憩時間は「労働から解放される時間」とされており、訪問介護の従業員が仕事から離れて自由に使うことができる時間です。そのため、休憩時間は労働の一環とは見なされず、労働時間には含まれません。休憩時間は仕事に拘束されず、自由に行動できるため、賃金支給の対象にも含まれません。
「待機時間」の見出しで述べたように、常勤職員やパート職員にとっての空き時間は基本的に労働時間に含まれるとされています。
ただ、登録ヘルパーの場合は状況が異なります。登録ヘルパーは緊急訪問対応を求められることが少なく、空き時間ができた場合、待機の義務が課されていません。そのため、登録ヘルパーの空き時間は会社の指示による拘束がないため、労働時間には該当しないです。
ただ、連続して訪問業務をおこなう際、各訪問の間にわずかに生じる空き時間については労働時間とみなされる場合もあります。この場合、労働時間の取り扱いについては、会社とスタッフが事前に協議し、認識を統一しておくことが重要です。
スタッフ側の混乱や不安を避け、労働時間の管理をスムーズにおこない、安心して業務をおこなえる環境を整えるためにも、空き時間の扱いに関するルールは、会社側の方針や労働契約内容は事前に確認しましょう。
訪問介護において、利用者宅から別の利用者宅へ移動する時間は、単なる移動時間にとどまらず、労働時間として扱われます。特に、移動中に業務連絡や報告をおこなう必要がある場合には、時間は明確に業務の一環として認められるため、給与が発生する対象になります。
訪問介護は利用者ごとのサービス提供が中心ですが、サービス提供をしていない移動時間だからといって、交通費のみ支給し、給与を支払わないのは違法とされる可能性があります。
移動時間を業務の一部として賃金支払いの対象にしないことは、労働基準法に抵触する恐れがあり、賃金支払いを怠ることに該当します。
賃金を確保するためには、移動時間における業務連絡や次の訪問に向けた準備が業務の一部と見なされる点について、事業所と訪問介護の従業員の間で共通認識を持ち、移動時間を労働時間として管理することが必要です。訪問介護では、利用者宅間の移動も介護業務の一環であり、給与支払い対象となることを意識し、勤務管理の徹底をはかりましょう。
訪問介護職員の労働時間は、主に次の三つの枠に分けることができます。
上記の通り、事務的業務をおこなっている場合、それぞれ別々の時間単価を設定することも可能です。就業規則や賃金規程で時間ごとの単価を規定することで、給与体系の明確化が図れます。
例えば、介護サービス提供時間に対しては標準的な時給を設定し、移動時間や事務的な作業時間については異なる時給を適用するなど、時間ごとに異なる賃金を設定する方法があります。こうした設定をおこなうことで、人件費の調整がしやすくなるため、事業所の経費を抑えながらも、従業員に公平で適正な給与を支払うことが可能となります。
特に、移動時間にも賃金を支払う場合、介護サービス提供時間と同等の時給を適用すると人件費が増加する可能性があるため、経営面を考慮しつつ合理的な給与体系を設計することができます。
労働基準法に基づき、移動時間も労働時間として扱う必要がありますが、時間単価の設定方法には柔軟な対応が可能です。そのため、訪問介護事業所においては、時間枠ごとに単価を設定し、合理的かつ法令に則した給与体系を導入しましょう。
訪問介護事業所では、従業員に安心して業務をおこなってもらうためにも、労働時間の扱いを明確にし、就業規則や賃金規定に従って適切な労働時間管理をおこなうことが重要です。移動や通勤の労働時間に関する判断基準や賃金の支払い方法をあらかじめ周知し、従業員と事業所が共通認識を持つことで、適正な勤務管理がおこなえるようにしましょう。
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