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個別研修計画とは、特定事業所加算算定時に求められる算定要件のひとつです。個別研修計画の策定には細かいルールが多く、正確に理解していなければ運営指導時に注意を受ける可能性もあるため注意が必要といえます。
この記事では、特定事業所加算の算定要件である個別研修計画について、具体的な事例を交えて解説します。この記事を読むことで、個別研修計画の細かいルールを確認しつつ、具体的にどのような計画を立てればよいのかわかります。
特定事業所加算(Ⅰ)〜(Ⅴ)の5種類があり、それぞれ算定要件と加算率が異なります。12項目ある算定要件の中でも、個別研修計画に基づく研修の実施は、特定事業所加算(Ⅳ)以外のすべての特定事業所加算において必要な算定要件です。
そのため、特定事業所加算の算定を検討している訪問介護事業所の経営者は、個別研修計画に関する詳細な情報を理解しておく必要があります。
特定事業所加算の算定要件と加算率について詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
個別研修計画を策定する際には、いくつか守るべきルールがあります。どのような考え方に基づいて研修計画を策定すべきか理解しておくとよいでしょう。
個別研修計画の基本的な考え方を無視して研修計画を策定した場合、運営指導時に注意を受けたり、特定事業所加算の算定が中止されたりといったトラブルが発生する可能性もあります。
厚生労働省は、特定事業所加算における個別研修計画の要件として、以下のように記載しています。
計画的な研修の実施 |
二十五号告示第二号イ(1)の「訪問介護員等ごとに研修計画の作成」については、当該事業所におけるサービス従事者の資質向上のための研修内容の全体像と当該研修実施のための勤務体制の確保を定めるとともに、訪問介護員等について個別具体的な研修の目標、内容、研修期間、実施時期等を定めた計画を策定しなければならない。 |
ここでは、上記の内容をもとに個別研修計画を策定する際の考え方について詳しく解説します。
個別研修計画で実施する研修は、法律で義務付けられた法定研修と異なる内容で実施する必要があります。
訪問介護を運営する際には、認知症・BCP・虐待防止・感染症対策などの研修が法律で義務付けられています。法定研修を実施する際には、個別の研修計画ではなく全体研修として実施しましょう。
一方で、特定事業所加算の算定要件に含まれる個別研修計画では、法定研修と異なる内容で計画を立てたうえで、職員ごとに立てた目標達成のために実施されなければいけません。
特定事業所加算の個別研修計画では、法定研修と同じ内容の研修にならないように注意しましょう。
特定事業所加算の個別研修計画は、勤務体系に関わらずすべての職員に対して個別に作成する必要があります。
訪問介護事業所で研修を開催する場合、事業所に所属している常勤者やパートの方に対してのみ研修を開催する事業所も多いのではないでしょうか。しかし、特定事業所加算の算定要件である個別研修計画では、登録ヘルパーや派遣社員などの従業員も対象となります。
事業所に所属する職員だけでなく、訪問介護サービスに関わるすべての職員に対して個別の研修計画を策定しなければいけないため注意しましょう。
個別研修計画を策定する際には、職員一人ひとりに対して、目標・内容・研修期間・実施期間を必ず記載する必要があります。
まず、研修計画を策定する際には、管理者は各職員がどのような能力を持っているのかを把握します。そのうえで、各職員が今年度以降にどのような能力を習得したいかを考えます。
職員との面談も行いつつ、年間を通して職員に習得させたい能力を決定して、能力習得に必要な研修計画を策定します。
事業所の管理者は、研修目標の達成状況を適宜確認し、必要に応じて改善措置を講じなければいけません。そのため、目標の設定時には、達成状況が見える目標を設定しなければいけない点にも注意しておきましょう。
個別研修計画を策定する際に、どのような研修内容にすべきか迷う方も多いでしょう。研修内容が個別研修計画の対象と認められない場合、算定要件を満たしていないと判断される可能性もあります。ここでは、具体的な研修内容を決める際のポイントについて詳しく解説します。
特定事業所加算における個別研修計画の主旨は、職員個人のスキルに応じた個別研修の実施によって、事業所のサービス品質を向上させることです。そのため、主旨と合致していない研修内容の場合、「適切な個別研修計画を策定していない」と判断される可能性があります。例えば、以下のような内容は注意しなければいけません。
上記の研修内容は、介護福祉士等の資格取得時に必要な学習範囲と重なっています。職員のスキルアップを目的とする特定事業所加算の主旨と異なるため、個別研修計画として適切ではありません。
基礎的な介護スキルに関する研修は、個別研修計画よりも全体研修で実施したほうがよいでしょう。
業務遂行上必要と取られる研修内容は特定事業所加算の主旨に合致していないと判断される可能性があります。業務遂行上必須と取られる研修内容の例として、以下のような内容が挙げられます。
上記の研修内容は、いずれも業務を遂行するうえで必須の知識です。このような内容は、個別研修計画に含められません。
個別研修計画を策定する際には、業務遂行上必須となる内容ではなく、職員ごとの資質向上を目指す研修を計画するように注意しましょう。
個別研修計画を策定する際の書式には、具体的な規定がありません。そのため、どのような書式で計画を策定すべきか迷う方も多いでしょう。ここでは、個別研修計画の具体的な事例を紹介しつつ、計画策定のコツについて詳しく解説します。
厚生労働省からは、特定事業所加算の算定に必要な個別研修計画書の書式例が提示されていません。そのため、実際に個別研修計画の書式を策定する際には、各自治体ごとの指示に従って計画書を作成する必要があります。今回は、一つの事例として川崎市が提示している書式をご紹介します。
特定事業所加算の個別研修計画には、目標・内容・研修期間・実施期間を必ず記載する必要があります。上記の川崎市の事例をもとに、自事業所で独自に作成しても構いません。しかし、可能であれば各自治体の窓口で相談しつつ作成することをおすすめします。
訪問介護事業所を運営する際には、必ず実施すべき法定研修が定められています。特定事業所加算算定に必要な個別研修計画とは別に、法令で定められている研修を全体研修として実施しなければいけません。全体研修として実施すべき内容に関しては以下のとおりです。
訪問介護で実施する全体研修 |
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参考:厚生労働省「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」
全体研修も個別研修と同様に年間の研修計画を作成する必要があります。個別研修計画を作成する際には、全体研修と同じ内容にならないように注意しましょう。
特定事業所加算の申請時と運営指導時には、必要書類について確認されます。必要書類を提出しなければ、特定事業所加算を算定できなくなるため注意しましょう。個別研修計画関連で求められる書類に関しては、以下のとおりです。
研修計画関連で確認を求められる書類 |
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特定事業所加算の個別研修計画は、「全体研修と異なる内容の個別に立てられた研修計画があり、計画に基づいた研修が実施されているか」が重要になります。申請時と運営指導時には、必ず上記の書類について確認しましょう。
個別研修計画を策定するタイミングは、原則として「年度末までに翌年の研修計画を策定すること」となっています。ただし、年度の途中で新たに算定する場合は、計画策定の期間について注意が必要です。
新たに算定する月が1〜3月の場合、加算開始月から翌年度末までの計画を策定しなければいけません。一方、新たに算定する月が4月〜12月の場合、当年度末までの計画を策定する必要があります。
個別研修計画を策定する際には、研修内容や研修の目標設定について注意しなければいけない点があります。特に、事例検討会を研修として取り扱えるのか、研修のテーマは毎回変えなければいけないのか、といった疑問を抱えている方も多いでしょう。ここでは、個別研修計画策定時の細かいルールについて解説します。
事例検討会による研修は、個別研修計画の主旨と異なる場合もあるため注意しましょう。
介護の現場では、事例検討会をもとにスキルや知識を深める方法もあります。しかし、特定事業所加算の個別研修計画では、事例検討会を通した学習が適切ではないと判断される場合もあります。なぜなら、事例検討会の場合、各職員の目標に合致した知識やスキルを獲得できるかが曖昧だからです。
個別研修計画を策定する際には、各職員の目標に沿った研修内容にすることをおすすめします。
個別研修計画における目標設定は、より具体的な目標を設定しましょう。
例えば、個別計画の目標として「移乗動作の介助方法について知識を深める」といった内容を設定してはいけません。なぜなら、どうすれば達成できる目標なのか曖昧だからです。この場合、「立位保持できない利用者様の移乗動作を1人で介助できるようになる」といった目標を設定したほうが望ましいでしょう。この目標であれば、「1人で介助できるようになったか?」という、明確な達成基準が設定できます。
個別研修計画における目標設定については、達成基準が明確になっているか確認しましょう。
特定事業所加算の個別研修計画で実施すべきテーマは、毎月変更しなければいけないものではありません。
特定事業所加算の主旨に沿っているものであれば、ひとつのテーマについて複数回の研修を実施することも可能です。
ただし、年間を通して半日〜1日で研修を終えてしまう場合には、研修を実施したと判断されない場合もあるため注意しましょう。
特定事業所加算の個別研修計画は、職員ごとに目標を設定する必要がありますが、研修はグループごとに実施しても問題ありません。
例えば、「脳梗塞後遺症の方に対する入浴支援」に関する目標を設定した訪問介護員10人程度を集めて、脳梗塞後遺症の方の介助方法に関する研修を実施することは可能です。
ただし、目標や能力が異なる職員を同時に研修すると目標に沿った研修内容を開催していないと判断される可能性もあります。グループを決める際には、同程度の知識とスキルを持っているか確認しましょう。
今回は、特定事業所加算の算定要件である個別研修計画について詳しく解説しました。
個別研修計画の策定は、特定事業所加算(Ⅳ)以外の算定に必須の要件です。そのため、将来的に特定事業所加算を算定する予定の訪問介護事業所は、必ず個別研修計画に関するルールの確認をしておきましょう。
特定事業所加算で実施すべき個別研修は、勤務体系を問わずすべての訪問介護員に対して実施すべき研修です。個人の能力や課題を検討したうえで、職員ごとに設定します。そのため、すべての訪問介護事業所で実施している法定研修の内容と同じ内容を実施してはいけません。また、目標を明確に設定し、管理者が定期的に達成状況を確認できるようにしておきましょう。
特定事業所加算の算定には、全体研修と異なる内容の個別に立てられた研修計画があり、計画に基づいた研修が実施されているかが重要です。しかし、各事業所の経営者が、すべての職員の個別研修計画を策定・評価できない場合もあるでしょう。その際には、特定事業所加算算定をサポートしてくれる外部サービスの利用をおすすめします。
参考資料:
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