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特定事業所加算とは、訪問介護で算定できる加算のひとつです。個別研修の実施や重度者対応などの取り組みを評価する加算で、これから算定しようと考えている事業所も多いでしょう。しかし、特定事業所加算には複数の算定要件があり、ルールが複雑な点には注意しなければいけません。
この記事では、特定事業所加算の算定要件について詳しく解説します。令和5年時点の最新情報をもとに解説しているため、これから特定事業所加算を算定する事業所の経営者にとって必見の内容です。この記事を読むことで、特定事業所加算を算定する際の注意点も理解できます。
特定事業所加算とは、質の高いサービス提供を行う訪問介護事業所が算定できる加算です。特定事業所加算には、特定事業所加算(Ⅰ)〜(Ⅴ)の5種類があり、それぞれ3%〜20%の加算率が設定されています。
特定事業所加算を算定することで、事業所は収益の改善が見込め、加算に伴う収入増により従業員の賃金向上や人材採用の促進が期待できるでしょう。また、算定している事業所のサービス品質をアピールする証となり、利用者や関係者からの信頼獲得にも繋がります。
一方で、加算取得には複雑な要件があり、継続的な加算取得や新たな加算取得に手間がかかること、また利用者の金銭的負担が増加するデメリットには注意しなければいけません。
特定事業所加算は、収益改善とサービス品質の向上を目指す訪問介護事業所にとって、算定するメリットが大きい加算です。
特定事業所加算の算定要件は、6つの体制要件と4つの人材要件、2つの重度対応要件で構成されています。特定事業所加算(Ⅰ)〜(Ⅴ)ごとに求められる算定要件と加算率が異なるため注意しましょう。各加算の算定要件と加算率は以下の表をご参照ください。
訪問介護の特定事業所加算 | |||||
算定要件 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | Ⅴ |
(1)訪問介護員等ごとに作成された研修計画に基づく研修の実施 | ○ | ○ | ○ | ○ | |
(2)利用者に関する情報またはサービス提供に当たっての留意事項の伝達等を目的とした会議の定期的な開催 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
(3)利用者情報の文書等による伝達(※)、訪問介護員等からの報告 (※)直接面接しながら文書を手交する方法のほか、FAX、メール等によることも可能 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
(4)健康診断等の定期的な実施 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
(5)緊急時等における対応方法の明示 | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
(6)サービス提供責任者ごとに作成された研修計画に基づく研修の実施 | ○ | ||||
(7)訪問介護員等のうち介護福祉士の占める割合が100分の30以上、または介護福祉士、実務者研修修了者、並びに介護職員基礎研修課程修了者及び1級課程修了者の占める割合が100分の50以上 | ○ | ○ | |||
(8)すべてのサービス提供責任者が3年以上の実務経験を有する介護福祉士、または5年以上の実務経験を有する実務者研修修了者若しくは介護職員基礎研修課程修了者若しくは1級課程修了者 | ○ | ○ | |||
(9)サービス提供責任者を常勤により配置し、かつ、同項に規定する基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置していること。 | ○ | ||||
(10)訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の者の占める割合が100分の30以上であること。 | ○ | ||||
(11)利用者のうち、要介護4、5である者、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、たんの吸引等を必要とする者の占める割合が100分の20以上 | ○ | ○ | |||
(12)利用者のうち、要介護3~5である者、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、たんの吸引等を必要とする者の占める割合が100分の60以上 | ○ |
参考:厚生労働省 社保審 介護給付分科会「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」
特定事業所加算の算定要件には、6つの体制要件があります。特に、定期的な会議開催や文書による報告などを含んだ4つの体制要件は、すべての特定事業所加算算定に影響するため重要です。ここでは、各体制要件について解説します。
特定事業所加算の体制要件のひとつとして「訪問介護員等ごとに作成された研修計画に基づく研修の実施」が含まれています。この算定要件は、特定事業所加算(Ⅳ)以外のすべての加算で必要です。
特定事業所加算を算定する際に、すべての訪問介護員に対して個別研修計画書を作成し、研修を実施または実施する予定である必要があります。
研修の内容に関しては、訪問介護職員ごとに具体的な研修目標、内容、研修時期、実施時期などを定めた個別研修計画書を作成し、最低1年に1回以上研修を実施しなければいけません。また、普段行っている全体研修とは別に、職員のスキルアップを目的とした個別研修を行う必要があります。
特定事業所加算の算定要件である研修計画については、以下の記事で詳しく解説しているので、そちらをご参照ください。
【特定事業所加算】個別研修計画の立て方を解説!事例と書式も紹介
訪問介護で特定事業所加算を算定する場合、定期的に留意事項を伝達するための会議を開催する必要があります。
留意事項の伝達を目的とした会議とは、訪問介護員とサービス提供責任者が利用者情報やサービス提供の注意点を共有し、技術指導を行うために定期的に実施する会議のことです。
具体的には、月に1回以上の会議を開催して、すべての訪問介護員の参加が求められています。また、テレビ電話装置などを活用したリモート会議の実施も許可されています。リモート会議を開催する際には、個人情報保護に関するガイドラインを遵守しなければいけない点には注意しましょう。
特定事業所加算の算定要件である定期会議に関しては、以下の記事でも詳しく解説しているので、そちらもご参照ください。
【特定事業所加算】定期的な会議開催の算定要件を満たすためには?開催方法や議事録の様式例も解説
訪問介護における特定事業所加算の算定要件として、「文書等による指示およびサービス提供後の報告」があります。
文書等による指示および報告とは、訪問介護員が利用者のADLや意欲などの留意事項を含めた情報について、文書で共有することを目的とした要件です。具体的には以下の情報について、その動向の記載が求められます。
サービス提供後に上記の事項について報告することが求められていますが、特に緊急時の対応やサービス提供責任者不在時の連絡体制は重要な課題のひとつです。
文書の交付は直接面接、FAX、メールなど多様な方法で可能ですが、サービス提供後の報告については、サービス提供責任者が必ず文書で保存しなければいけません。
文書等による指示およびサービス提供後の報告については、以下の記事で詳しく解説しているため、より詳しく知りたい方は以下の記事もご参照ください。
【特定事業所加算】指示・報告の算定要件を満たすために必要なことは?作成時の様式や例文も紹介
特定事業所加算の体制要件として、健康診断等を定期的に実施していることが求められます。
健康診断は、労働安全衛生法の規定に基づいて、常時使用する労働者に限らず訪問介護員を含むすべての従業員に対して実施しなければいけません。さらに、少なくとも1年以内ごとに1回の健康診断を、事業主の費用負担で実施することが義務付けられています。
これは特定事業所加算の算定に関わらず、労働安全衛生法で定められていることなので、必ず実施しましょう。
特定事業所加算の算定要件には、緊急事態発生時における対応方法の明示が含まれています。
具体的には、当該事業所における緊急時等の対応方針、緊急時の連絡先および対応可能時間等を記載した文書を作成します。それらの内容を、利用者に交付して、説明しておきましょう。ただし、利用者に交付する重要事項説明書に内容を明記するだけでも問題ありません。
特定事業所加算の体制要件の一つとして、サービス提供責任者の研修も必要です。
体制要件のひとつとして「研修計画に基づく研修の実施」がありますが、サービス提供責任者も例外ではありません。
事業所を運営するために必要な全体研修とは別に、サービス提供責任者ごとに個別研修計画を作成する必要があります。
特定事業所加算の種類によっては、4つの人材要件のうちいくつかの要件を満たす必要があります。ここでは、特定事業所加算の人材要件について詳しく解説します。
訪問介護における特定事業所加算の人材要件として、介護福祉士の割合に関する要件があります。特に特定事業所加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の算定には、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
訪問介護事業所に介護福祉士がいなかったとしても、実務者研修修了者などが配置されていれば要件を満たせることを覚えておきましょう。
訪問介護における特定事業所加算の人材要件には、サービス提供責任者の経験年数に関するものも含まれています。特定事業所加算(Ⅰ)と(Ⅱ)を算定するためには、サービス提供責任者が以下のいずれかの条件を満たしていなければいけません。
特定事業所加算(Ⅱ)を算定する場合、上記の介護福祉士の割合に関する条件とサービス提供責任者の経験年数に関する条件のいずれかを満たせば算定できることも覚えておきましょう。
訪問介護で特定事業所加算(Ⅳ)を算定するためには、サービス提供責任者を常勤で配置し、さらに基準を上回る数のサービス提供責任者を常勤で1人以上配置する必要があります。
通常の運営規定よりも多くのサービス提供責任者を配置しなければいけないため、注意しておきましょう。
特定事業所加算(Ⅴ)の算定要件として、訪問介護員の経験年数が重要なポイントとなります。特定事業所加算(Ⅴ)を算定する場合、訪問介護員の総数の中で、勤続年数7年以上の者の占める割合が30%以上でなければいけません。
令和3年の介護報酬改定から新たに追加された要件であり、勤続年数の計算方法には注意する必要があります。勤続年数の計算方法については、以下の注意点で解説します。
訪問介護における特定事業所加算の重度者要件は、事業所が提供するサービスの中で特に介護が必要な方の割合を指標とする要件です。具体的には、以下の2つの要件があります。
重度者要件は、特に特定事業所加算(Ⅰ)(Ⅲ)(Ⅳ)の算定に必要となります。自事業所が算定する加算に応じて計算しましょう。
特定事業所加算を算定する要件の中でも、特に注意しなければいけない点が併算定の条件と勤続年数の計算方法です。注意点を守らなければ算定できなくなる可能性もあるため、しっかりと確認しておきましょう。ここでは、特定事業所加算を算定する際に注意すべきことについて詳しく解説します。
特定事業所加算は複数の種類があり、それぞれ算定要件が異なります。複数の算定要件を満たしている場合、同時算定の可否について考える方も多いでしょう。
特定事業所加算同士の併算定は、基本的にはできません。ただし、特定事業所加算(Ⅲ)と(Ⅴ)の組み合わせのみ併算定可能です。
特定事業所加算(Ⅲ)と(Ⅴ)を同時に算定する場合、合算して加算率は13%となるため、それぞれ算定要件を満たした事業所は併算定を検討してもよいでしょう。
特定事業所加算における人材要件のひとつである介護職員等の勤続年数は、常勤換算法で計算します。勤続年数とは、同一法人内での勤続年数であり、訪問介護員として従事した勤続年数ではありません。
また、勤続期間中の産前産後休業や病気休暇、育児・介護休暇などの理由によって休業を取得した期間も勤続年数に含められます。
特定事業所加算(Ⅴ)を算定しようと考えている場合、訪問介護事業所内だけの勤続年数ではなく同一法人内の勤続年数で計算するため注意しましょう。
この記事では、訪問介護における特定事業所加算の算定要件についてわかりやすく解説しました。
訪問介護の特定事業所加算は、質の高いサービス提供を行う事業所が算定できる加算です。特定事業所加算(Ⅰ)〜(Ⅴ)の5種類があり、それぞれ3%〜20%の加算率が設定されているため、算定要件を満たしている事業所は積極的に算定しましょう。
算定要件は12項目で、6つの体制要件と4つの人材要件、2つの重度者対応要件に分類されます。各要件の内容を確認して、算定可能か判断しましょう。特に、特定事業所加算の併算定条件や勤続年数の計算方法には注意が必要です。
この記事で得た情報をもとに、自事業所は算定要件を満たせるのか判断して、積極的に特定事業所加算を算定していきましょう。
参考資料:
厚生労働省 社保審 介護給付分科会「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」
令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.4)(令和3年3月 29 日)」の送付について
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