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特定事業所加算とは?訪問介護事業所が取得するべき理由

元山 ゆず香

監修者

介護福祉士

元山 ゆず香

大学を卒業後、特別養護老人ホームにて現場業務に従事。その後、福祉系大手企業に入社し、エリアマネージャーとして、施設介護事業・居宅介護事業・障害福祉サービス事業でのエリアマネジメント・行政対応を経験。また、法人本部に異動し教育部門・監査担当部門の部長を歴任。現在は全国の介護・障害福祉事業所の支援やセミナーの開催、DXO株式会社での介護関連事業の支援などを実施。

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令和3年の介護報酬改定では、訪問介護の特定事業所加算に関する内容が変更され、訪問介護事業の経営者から注目を集めました。しかし、新規で特定事業所加算の取得を目指す方や、特定事業所加算を算定するメリットなどの情報をもう一度確認しておきたい方も多いでしょう。

この記事では、訪問介護における特定事業所加算の算定要件やメリットについてわかりやすく解説します。この記事を読むことで、算定する際の注意点や算定するまでの具体的な手順も理解できます。

訪問介護における特定事業所加算とは

特定事業所加算は、質の高い介護サービスを提供している事業所を評価する加算のひとつです。訪問介護における特定事業所加算では、質の高いサービスを提供するための体制を整えた事業所や、重度の利用者を受け入れている事業所などが評価されます。

特定事業所加算には、特定事業所加算(Ⅰ)~(Ⅴ)の区分が設けられており、要介護者の売上から区分に応じた割合(3%〜20%)の加算を算定可能です。

令和3年までは、訪問介護事業所で算定できる特定事業所加算は(Ⅰ)~(Ⅳ)でしたが、令和3年度の報酬改定で、訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の職員を30%以上配置することで算定できる加算(Ⅴ)が新たに設けられました。

また、同改定時にICTを活用した会議でも算定条件を満たせるようになり、多くの訪問介護事業所が特定事業所加算を算定しやすくなりました。そのため、将来的に特定事業所加算を算定する事業所が増加する可能性が高いでしょう。

特定事業所加算の算定要件

特定事業所加算(Ⅰ)~(Ⅴ)の各算定条件や加算率については、以下の一覧表をご参照ください。

訪問介護の特定事業所加算

算定要件


(20%)


(10%)


(10%)


(5%)


(3%)

(1)訪問介護員等ごとに作成された研修計画に基づく研修の実施

 

(2)利用者に関する情報またはサービス提供に当たっての留意事項の伝達等を目的とした会議の定期的な開催

(3)利用者情報の文書等による伝達(※)、訪問介護員等からの報告

(※)直接面接しながら文書を手交する方法のほか、FAX、メール等によることも可能

(4)健康診断等の定期的な実施

(5)緊急時等における対応方法の明示

(6)サービス提供責任者ごとに作成された研修計画に基づく研修の実施

   

 

(7)訪問介護員等のうち介護福祉士の占める割合が100分の30以上、または介護福祉士、実務者研修修了者、並びに介護職員基礎研修課程修了者及び1級課程修了者の占める割合が100分の50以上

   

(8)すべてのサービス提供責任者が3年以上の実務経験を有する介護福祉士、または5年以上の実務経験を有する実務者研修修了者若しくは介護職員基礎研修課程修了者若しくは1級課程修了者

   

(9)サービス提供責任者を常勤により配置し、かつ、同項に規定する基準を上回る数の常勤のサービス提供責任者を1人以上配置していること。

   

 

(10)訪問介護員等の総数のうち、勤続年数7年以上の者の占める割合が100分の30以上であること。

    

(11)利用者のうち、要介護4、5である者、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、たんの吸引等を必要とする者の占める割合が100分の20以上

 

  

(12)利用者のうち、要介護3~5である者、日常生活自立度(Ⅲ、Ⅳ、M)である者、たんの吸引等を必要とする者の占める割合が100分の60以上

   

 

参考:厚生労働省 社保審 介護給付分科会「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」

 

厚生労働省の資料では、上記のように示されています。しかし、上記の表には各算定要件に関する細かい条は記載されていません。特定事業所加算の詳細な算定要件について知りたい方は、以下の記事をご参照ください。

 

訪問介護における特定事業所加算の算定要件とは【令和5年最新版】

訪問介護事業所が特定事業所加算を算定するメリット

特定事業所加算の算定は、訪問介護の運営において数多くのメリットがあります。特に、経営を安定させたい事業所や、人材不足に困っている事業所は、積極的に特定事業所加算を算定するとよいでしょう。ここでは、特定事業所加算を算定する3つのメリットについてご紹介します。

経営が安定する

特定事業所加算を算定することで、現在の報酬に最大20%上乗せして算定できるため、事業所全体の収益が増加します。また、特定事業所加算で増加した収益の使い道は、事業所が自由に選択できるメリットもあります。

例えば、月に300万円の収益が出ている事業所が特定事業所加算(Ⅰ)を取得した場合、毎月60万円の増収が見込めます。さらに、増加した収益を使って設備を強化したり、新たなITツールを導入したりといったことも可能です。これによって経営が安定する事業所も多いでしょう。

もし、自事業所の経営を安定させたいと考えているのであれば、特定事業所加算の算定をおすすめします。

サービスの質が向上する

特定事業所加算を算定する過程で事業所のサービス品質が向上する点も、加算を算定するメリットのひとつです。

例えば、特定事業所加算(Ⅳ)以外のすべての加算には、算定要件として「職員研修の実施」が含まれています。定期的に職員研修を開催することで、職員の知識とスキルが向上し、事業所のサービス品質も向上するでしょう。

また、特定事業所加算(Ⅰ)~(Ⅴ)を算定する要件のすべてに、利用者の情報交換を目的とした「定期会議の開催」が含まれています。スタッフ同士で密に利用者の情報を交換できるため、利用者に寄り添ったケアを提供しやすくなるでしょう。

特定事業所加算を算定するためには、必ず研修や定期会議を実施しなければいけないため、自然と事業所のサービス品質が向上していくのです。事業所のサービス品質を向上させるひとつの手段として、特定事業所加算の取得を目指してもよいでしょう。

職員の採用・定着につながる

特定事業所加算の算定によって、職員の採用率や定着率の向上も期待できます。

特定事業所加算で増加した収益の利用使途は限定されていません。そのため、特定事業所加算の増収分を賃金に還元して、職員の定着率を上昇させることも可能です。

また、特定事業所加算の増収分で賃金を引き上げることにより、周辺の訪問介護事業所よりも人材が集まりやすくなるでしょう。これにより、採用率が上昇する可能性もあります。

職員の採用率や定着率が低くて困っている訪問介護事業所には、特定事業所加算の算定をおすすめします。

特定事業所加算を算定する際の注意点

特定事業所加算を算定する際には、いくつかの注意点を守らなければ、算定できない可能性もあります。特に、職員の勤続年数を計算する方法や、利用者への説明と同意に関しては注意が必要です。ここでは、特定事業所加算を算定する際の注意点について解説します。

勤続年数は同一法人内のみで計算する

訪問介護事業所が特定事業所加算を算定する際、勤続年数の計算方法には注意しましょう。

特定事業所加算(Ⅴ)を算定する場合、訪問介護員のうち勤続年数7年以上の者を30%以上配置しなければいけません。

この条件における勤続年数とは、前年度の3月を除く11ヶ月間または届出日の前3ヶ月の平均実績をもとに、常勤換算法で算出します。

また、勤続年数は同一法人内の異なるサービス施設や職種間でも通算可能であり、産前産後休業や病気休暇等の休業期間も勤続年数に含めます。

特定事業所加算(Ⅴ)の算定を新たに行う場合、勤続年数の要件を満たしているかが重要です。計算方法について正しく理解して、一度自分で計算してから算定の届出を提出しましょう。

参考:厚生労働省老人保健課 高齢者支援課 認知症施策・地域介護推進課「介護保険最新情報 令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.4)(令和3年3月 29日)」の送付について

利用者への説明と同意を得ることが必要

特定事業所加算を算定することで、利用者の自己負担額が上昇する点にも注意が必要です。

新たに特定事業所加算を算定する場合や加算区分が変更される場合、利用者の自己負担額が変更されるため、実際に算定する前に利用者からの同意を得なければいけません。

利用者への説明に関しては、特定事業所加算の算定によって事業所のサービス品質が向上することなどを説明します。実際に説明した内容どおりにサービス内容を見直し、サービス改善として利用者へ還元することも重要です。

加算算定の手続きを進めてすぐに算定するのではなく、必ず利用者への説明と同意が必要なことを覚えておきましょう。

加算(Ⅲ)と(Ⅴ)以外の併算定は不可

特定事業所加算同士の併算定については、特定事業所加算(Ⅲ)と(Ⅴ)のみ同時に算定できます。しかし、それ以外の(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅳ)に関しては、同時に算定することはできません。

特定事業所加算(Ⅲ)と(Ⅴ)を同時に算定することで、13%の加算率となります。両方の算定要件を満たせる事業所は、加算(Ⅲ)と(Ⅴ)の併算定について検討してもよいでしょう。

 

特定事業所加算を取得する方法

特定事業所加算を実際に算定する場合、管轄している都道府県の窓口へ届出書類を提出する必要があります。しかし、届出書類を提出する具体的な手順がわからない方も多いでしょう。ここでは、特定事業所加算を取得するまでの方法を順番にわかりやすく解説します。

算定要件を確認

特定事業所加算の算定要件に関しては、厚生労働省のホームページや各自治体のホームページで確認できます。まずは、それらの情報を確認して、自事業所でも特定事業所加算を算定できるか確認しましょう。

インターネットで情報をリサーチする際には、古い情報に注意しなければいけません。インターネットでリサーチしていると、今の介護保険法では変更された内容を含んだサイトもあります。必ず、どの時点での情報なのか確認するようにしましょう。

どうしても正確な情報が見つからない場合は、算定要件について各都道府県窓口へ直接聞いてみるのもおすすめです。

必要書類を準備

特定事業所加算を算定するためには、「届出書」や「介護給付費等の算定に係る体制等状況一覧表」の他に、各加算に応じた添付書類を用意する必要があります。

例えば、特定事業所加算(Ⅰ)を算定するためには、研修計画書や会議の予定表などを用意する必要があるでしょう。しかし、提出しなければいけない書類の種類や様式については、各自治体ごとで対応が異なります。

必ず、届出を提出する都道府県のホームページ等で必要書類を確認しましょう。また、都道府県の指示と異なる提出方法で届出を提出した場合、差し戻される可能性もあります。

書式や提出方法についてわからないことがあった場合は、直接窓口へ質問することをおすすめします。

提出窓口へ書類提出

準備した書類は、各都道府県の窓口へ提出します。届出書類を提出するタイミングに関しては、算定前月の15日までに郵送する方法が一般的です。

しかし、提出までの期日や提出方法については、各都道府県ごとに若干異なる場合もあります。届出を提出する前に確認しておくと、その後の流れで混乱する事態を避けられます。

必要書類を提出する前に、各自治体のホームページ等で提出期日を確認しておきましょう。

算定開始

提出した書類が受理されると、翌月から特定事業所加算を算定できます。

一般的には、届出書類を2部作成し、都道府県からの印が入った書類の控えを受け取ります。この控えは、運営指導などの際に確認されるため、必ず保管しておきましょう。

また、実際に算定が開始する前に利用者様からの同意をいただいておくことも忘れてはいけません。届出が受理されたのを確認して、利用者様へ説明して同意を得てから算定を開始します。

まとめ:訪問介護の特定事業所加算算定はメリットが大きい

この記事では、訪問介護における特定事業所加算について詳しく解説しました。

訪問介護における特定事業所加算は、質の高い介護サービスを提供している事業所や重度者を受け入れている訪問介護事業所を評価する加算のひとつです。

訪問介護の特定事業所加算には(Ⅰ)~(Ⅴ)の区分があり、それぞれ算定要件や加算率が異なります。自事業所の状況を把握しながら算定することをおすすめします。

特定事業所加算を算定する際には、勤続年数の計算方法や利用者からの同意、併算定の可否について注意しなければいけません。また、実際に算定の手続きを行う際には、自治体によって細かい条件が異なる場合もあるため、詳細については各都道府県窓口に相談しながら準備を進めるとよいでしょう。

訪問介護事業所が特定事業所加算を算定することで、経営状況が安定し、職員の採用率や定着率の向上にも良い効果が期待できます。

事業所運営に悩んでいる訪問介護事業所にとって、特定事業所加算を算定するメリットは大きいため、積極的に算定することをおすすめします。

 

参考資料:

厚生労働省 社保審 介護給付分科会「令和3年度介護報酬改定における改定事項について」

厚生労働省老人保健課 高齢者支援課 認知症施策・地域介護推進課「「介護保険最新情報 「令和3年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.4)(令和3年3月 29日)」の送付について」

横浜市「訪問介護【加算】」

宮城県「特定事業所加算(訪問介護)算定に係る提出書類」

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